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東京地方裁判所 平成4年(船)2号 決定

主文

申立人の本件申立てを棄却する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

一  本件申立の趣旨は、「別紙一記載の船舶(以下「本件船舶」という。)に係る別紙二記載の事故から生じた物の損害に関する債権について責任制限手続を開始する。」というのであり、申立の理由は別紙「申立の理由」記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  一件記録によれば、本件船舶は、長さ38.73メートル、幅8.50メートル、深さ2.80メートル、総トン数一四一トンの油タンカーであり、東京湾内の各港間及び同湾に注ぐ荒川等の河川沿いの油槽所への灯油等の石油製品の運送業務に従事していた汽船であること及び別紙二記載の衝突事故を起こしたことが認められる。

2  ところで、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(以下「船主責任制限法」という。)の適用を受ける主体としての船舶については、同法二条一項一号において「航海の用に供する船舶」であると定義されている以上に具体的な定義はなく、専ら解釈に委ねられているが、船主責任制限法の基礎となる条約上においても、主体については「海上航行船舶」(SEA―GOING―SHIP)と定められているだけであること、立法の経緯及び「航海」という言葉の持つ社会通念上の意味等に照らすと、本件船舶のように港湾河川のみを航行する船舶は、同号にいう「航海の用に供する船舶」には該当しないと解すべきである。したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件申立は失当である。

よって、申立人の本件申立ては理由がないから棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 清水研一)

申立の理由

一、事故の原因

別紙一記載の船舶につき別紙二記載の事故(以下本件事故という)が発生した。その原因は別紙三記載のとおりである。

二、申立人と事故に係る船舶との関係

申立人は、本件事故発生当時における別紙一記載の船舶の船舶賃借人である。

三、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(以下本法という)第八条の規定により算定した事故に係る船舶のトン数

二二七トン

四、責任限度額

本法第二条一項七号の定義する「一単位」の一六万七千倍の金額。

五、制限債権の原因並びに額及びその算定の基礎

別紙四記載のとおり。

六、知れている制限債権者の氏名又は名称及び住所

別紙四記載のとおり。

七、知れている受益債務者の氏名又は名称及び住所並びにその者と事故に係る船舶との関係

別紙五記載のとおり。

別紙一 船舶の表示

船舶の種類及び名称 汽船第八富士宮丸

船籍港 東京都

船質 鋼

総屯数 壱四壱トン

機関の種類及び数 発動機 壱箇

推進機の種類及び数 ら旋推進器壱箇

進水の年月 昭和六参年壱〇月

別紙二 事故の表示

一、発生日時 平成三年一月五日午前六時一〇分頃

二、発生場所 荒川に架かる東京都葛飾区四つ木一丁目所在の京成押上線荒川鉄橋橋下付近の同河川上。

三、事故の態様 別紙一記載の第八富士宮丸が荒川を遡航中京成押上線荒川鉄橋橋下の通航路を航過しようとした際、同橋の橋脚に衝突した。

別紙三 事故の原因

別紙一記載の汽船第八富士宮丸(以下本船という)は、長さ38.73メートル、幅8.50メートル、深さ2.80メートルの油槽船(総トン数一四一トン)であり、東京湾内の各港間及び同湾に注ぐ荒川等の河川沿いの油槽所への灯油等の石油製品の海上及び河川上の運送業務に従事していた。

本船は、平成三年一月五日午前四時三〇分頃、埼玉県和光市所在のモービル石油株式会社北東京油槽所へ灯油五〇〇キロリットルを運送するため、川崎港内多摩川係船所を出港した。本船は東京湾を航行後荒川に入って遡航し、同日午前六時頃平井大橋橋下を水路中央にて通過後、同橋から約二、一〇〇メートル上流にある木根川橋の約二〇〇メートルばかり下流のところに達したとき、本船船長山口清は本船船橋にあって、同木根川橋から更に約一九〇メートル上流にある京成押上線荒川鉄橋の通航路を通過するための操船に着手したが、右荒川鉄橋の通航路は左岸寄り(本船進行方向の右舷側)に設置されておりかつその出入口に橋防護用の門構が設置されていたので、同所より右舵をとって左岸側に寄せながら木根川橋を機関回転数を二四〇回転の微速に減速しつつ通過中、本船船首部分が同木根川橋を出た同六時九分頃、右荒川鉄橋下流側の門構上の進行方向右端の赤色灯に向け進航すべく徐々に右舵をとって同方向に向首させ、更に木根川橋を通過後の同九分半頃、速度を機関二二〇回転の極微速として同門構上中央の緑色灯に進路を向けるべく徐々に左舵をとりついで左舵一杯をとったが、当時の上潮流が速かったため左舵が効かず本船は門構内に進入していったものの左回頭しなかったのであるから、船長としては、そのまま続航すると通航路の進行方向右側の荒川鉄橋橋脚に衝突する虞れがあったので直ちに機関後進として本船を停止させるべきであったが、同六時一〇分頃、本船船橋が同門構直前に至って始めて衝突の危険を感じ機関停止引き続き全速力後進としたが間に合わず本船右舷船首部を右橋脚に衝突させ、因って同橋橋脚及び同橋上の鉄道線路に損傷を生じさせた。

別紙四

知れている制限債権者及び制限債権等一覧表

氏名又は名称等

住所

制限債権額

原因

算定の基礎

京成電鉄株式会社代表者代表取締役村田倉夫

(京成押上線荒川鉄橋の所有・管理者)

〒131 東京都墨田区押上一―一〇―三

三七二、八二〇、六五〇円

本件事故により被った荒川鉄橋の損傷

荒川鉄橋損傷による同橋の復旧工事費用及び押上線が通行不能になったことによる代行・振替輸送費並びに逸失利益。

合計  三七二、八二〇、六五〇円

別紙五 知れている受益債務者

一、名称 富士石油運輸株式会社

住所 東京都大田区南久が原二丁目七番七号

関係 別紙一記載の船舶の所有者

二、氏名 山口清

住所 神奈川県川崎市川崎区出木野五―二

関係 本件事故当時の本船船長

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